金沢地方裁判所 昭和24年(行)2号 判決
原告 吉光栄吉
被告 石川県農地委員会
一、主 文
原告の請求中粟生村農地委員会の爲した買收賣渡並に異議申立却下の各行政処分の取消を求める部分はこれを却下する。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
別紙目録記載宅地に関する(一)訴外粟生村農地委員会が(イ)昭和二十三年十月二十七日爲した買收並に同目録記載の各訴外人等に対する賣渡の各決定、(ロ)同年十一月十五日爲した原告の右決定に対する異議申立却下の決定、(二)被告が(イ)同年十二月二日爲した原告の訴願に対する裁決、(ロ)右買收賣渡決定に與えた承認はそれぞれこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。
三、事 実
原告訴訟代理人は、その請求の原因として、別紙目録記載宅地は孰れも原告の所有であつたが、訴外粟生村農地委員会は昭和二十三年十月二十七日これを自作農創設特別措置法(改正前以下同じ)第十五條により同目録記載の訴外西田賢外九名の申請に基き買收し、併せてこれを同人等に賣渡す旨の決定をした。原告は右決定には不服であつたので、右農地委員会に対し異議の申立をしたが、同年十一月十五日却下されたので更に被告に対し訴願をしたところ、同年十二月二日被告は原告の右訴願の申立相立たないという裁決をし、さきに粟生村農地委員会の爲した右買收賣渡決定に承認を與えた。然し、(一)本件宅地は自作農創設特別措置法第十五條に基いて買收すべからざる土地である。すなわち、(イ)右宅地は位置、環境等からして直接には右買受人等の農業経営上必要なものではないし、(ロ)同人等はいずれも農業以外の職業を有し、いわゆる專業農家でないから本件のような宅地の買收を申請する資格もなければ買受の適格もない。(二)のみならず、粟生村農地委員会では地主の承諾しない宅地は一切買收しないということになつていたところ、会長である訴外青山隆の指示で予め作成された宅地買受申込書に右買受人等の記名捺印がなされ、その結果本件の買收賣渡が行われたのである。以上の理由により粟生村農地委員会の爲した前記買收賣渡の決定は違法であるから、これを支持する同委員会の前記異議却下の決定、被告の爲した訴願の裁決並に承認も亦違法である。よつてこれら違法行政処分の取消を求めるため本訴に及ぶと述べ、被告の主張に対し訴外西田賢外九名の本件宅地買受人等は元原告より右宅地を賃借していたものであることはこれを認めるが、その余はこれを否認すると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」この判決を求め、其の答弁として別紙目録記載宅地は元原告の所有であつたが訴外粟生村農地委員会は昭和二十三年十月二十七日原告主張のように右宅地の買收賣渡の決定をしたこと、原告はこれに対し異議の申立をしたが同年十一月十五日却下されたこと、そこで原告は右に対し訴願をしたが被告は同年十二月二日原告主張通りの裁決をし、ついで承認をしたこと、而して右宅地買受人中一部農業以外の收入を得ている者があることはこれを認めるが、その他はこれを否認する。本件宅地の買受人等は孰れも原告から右買受宅地を賃借し、農業を営み、今回の農地改革によつては四畝十五歩より多きは四反三畝二十三歩の解放農地の賣渡を受けていわゆる「自作農」となつた者達であるが、同人等はその上に自己等居住の家屋その他納屋等を所有し、家屋の内外を問わず農産物の調整、乾燥其の他あらゆる農作業にその宅地を利用しているから、粟生村農地委員会の本件宅地の買收賣渡には何らの違法がない。又本件宅地買受人中西田賢は農閑期に日稼を、吉光隆二は左官職を、八木甚二は粟生村の收入役を、柴田宗俊は履物商を爲しているがこれらは皆副業であつて、これを以つて生活の基本としている者ではない。そして又これらの者も古くより居村において農業を営み、村の平均若くはこれに近い耕作面積を有している者で右宅地買收の申請を爲す資格を有するし、又その買受の適格者でもある。原告の主張するような宅地買受申込書の作成は單に手続の迅速を期するため関係者の指導と便宜を図つたにすぎないと述べた。(立証省略)
四、理 由
別紙目録記載宅地は元原告の所有であつたが、訴外粟生村農地委員会は昭和二十三年十月二十七日自作農創設特別措置法第十五條により同目録記載の訴外西田賢外九名の申請に基きこれを買收し、同時にこれを同訴外人等に賣渡す旨の決定をしたこと、原告はこれについて右農地委員会に異議の申立をしたが同年十一月十五日却下されたこと、そこで更に被告に訴願の申立をしたが、同年十二月二日右申立相立たないとの裁決が爲されついで被告は右買收賣渡の決定に承認を與えたことは当事者間に爭がない。
先づ右買收宅地とその買受人等の農地経営上の必要性の関係について考えてみるに、原告は右宅地の位置、環境等からして直接の必要度がないと主張するけれども、自作農創設特別措置法第十五條第一項第二号による宅地の買收は、同法によつて解放された農地について自作農となるべき者が自己の賃借宅地などについて政府に買收すべき旨の申請を爲し、農地委員会がその申請を相当と認めたときはこれを政府で買收するというのであつて、解放農地と買收宅地との間に原告主張のような直接の農業経営上の必要関係は、同條第一項第一号の買收「農地の利用上必要な農業用施設」の場合と異り、特にその要件とされていないのである。すなわち、農地委員会の認定が著しく不当である場合例えば農業経営と全然無関係な宅地の如きは買收すべきではないが、解放農地に対するその附帶施設或は農地と宅地があつて、その中農地だけが買收されたのではあとに残つた宅地の処置に困るという特殊の直接又は主從の利用関係がなければその宅地の買收は許されないという法文上の根拠は全くない。右の如き特殊の関係があれば勿論、そのような直接的な利用関係がなくても農地委員会が宅地買收の申請を農業経営の面から相当とする限り、これを買收しようとするのが右第十五條第一項第二号の趣旨なのである。本件の場合をみると、前記訴外西田賢外九名の者は原告より本件宅地をそれぞれ賃借していたことは当事者間に爭なく、証人青山隆の証言により眞正に成立したと認められる乙第二号証、乙第三号証証人藤本義弘、同西田賢、同大田茂、同吉岡吉栄、同青山隆、同市田豊策、同森仁三郎、同吉光まさを、同八木甚二、同柴田宗俊、同柴田せつの各証言並に檢証の結果を総合考察すると、右賃借人等は孰れも今度の農地改革で多いものは田畑併わせて四反三畝二十三歩、少いものでも四畝十五歩の農地の賣渡を受けて自作農となり、本件宅地については農業経営上生活の本拠ともいうべき住家、納屋その他厩等を所有していることが明かであり、又農繁期には農作物の收納、乾燥等その他凡ての農作業にそれが利用されていることが窺知されるので、粟生村農地委員会が右宅地買收の申請を相当と認め、これを買收の対象に組入れたことは著しく裁量を誤つたと見るべき点はなく、その他の資料によるも右の認定を左右するものがない。而して原告は、本件宅地の買受人等は他に職業を有し、いわゆる專業農家でないから同人等の申請に基いては右宅地の買收賣渡は許されないと主張するけれども前認定の如く同人等は右第十五條に定める農地の賣渡を受けて自作農となつたものであるから、同條に基く宅地買收の申請も同法第二十九條の買受資格にも何等欠くるところがない。尤も右宅地買受人中西田賢は日稼を、吉光隆二は左官職を、八木甚二は居村の收入役を、柴田宗俊は履物商をそれぞれしていることは被告の爭わないところであり、証人大田茂、同吉岡吉栄、同森仁三郎、同戸田修藏の各証言並に原告本人尋問の結果に徴しても、右の外農閑期に日稼などをしている者があるけれども右各証拠並に証人藤本義弘同西田賢、同青山隆、同柴田せつ、同市田豊策、同八木甚二、同吉光まさ、を同柴田宗俊の各証言及び檢証の結果から総合考察すると、粟生村は手取川の沿岸にあつて旱害や水害が多く、それに耕地も少いので同村の大半以上が事業以外に何らかの副業をもつている現状であり、右宅地買受人等のもつている農業以外の仕事というのも、そういつた農業だけでは生活がなりたたないという同村共通の理由でこれをやつていることなのである。すなわち、西田賢、吉岡吉栄、大田茂、森仁三郎、柴田寛治等の日稼は農閑期を利用する副收入手段であり、又八木甚二の収入役、吉光隆二の左官職(見習)柴田宗俊の履物商も生治の主たる基磐は農業にあると見られる。殊に柴田宗俊の履物商は收入の数額という点だけを考えると、或は賣行次第で時には農收入と相半ばすることもあろうが、一時的の收入の多少により直ちに履物商を主たる営業と謂うべきでなく收入の安定性柴田宗俊自身の主観等を総合して農業を主とするものと認むべく同人に限らず八木甚二や吉光隆二も從來からの耕作状態等からみると矢張り農業が主であるというのが相当である。右認定に反する原告本人の供述は証人戸田修藏、同藤本義弘の証言に照し措信出來ず、他に右協定をくつがえすに足る証拠はない。而して、いやしくも何らかの副業をもつている者、原告の言葉でいえば專業農家でない者には宅地買收の申請資格がないという根拠はないのであるから、本件宅地について粟生村農地委員会が許すべからざる買收賣渡の処分をしたという原告の右主張は理由がない。
次に原告は地主の承諾しない宅地は一切買收しないという決議があつたと主張するけれどもこれを認めるに足る資料はない。尤も証人藤本義弘、同戸田修藏並に原告本人の各供述によると宅地についても地主と話合のつたものを買收するという趣旨の回覧があつたようであるが、宅地買收に関する粟生村農地委員会の議事録であ成立に爭のない甲第二号証によると右に符合するような決議のあつたことは認められない。ただ、昭和二十三年十月十八日の委員会に出來ることなら地主と合議して円満に処理すればよいか、それは望むべくもないから柴田宗俊のように商業に使用しているとか、その他畑作に使つている宅地については地主と話合がなければ買收しないという決議がなされている。しかし、右柴田が本件で買受けた部分は農業に使つている部分で、これは右の議事録によつても明かなように、委員会の決議で他の商用の部分とが分筆して買收することとし、これには地主との合議はいらないとされていたし、檢証の結果によるも右の外本件係爭宅地に商業若くは畑作に使つているものはないのであるから、粟生村農地委員会は本件宅地について自ら定めた決議を無視してその買收賣渡の処分をしたようなことはないと言わねばならない。そして仮りに原告主張のような決議があつたとしても、それは單に地主との紛爭を避けようとする趣旨のもので別にそれがあつたからとて自作農創設特別措置法に定める買收賣渡の規定を排除する法的拘束力を有するとも考えられないから、原告のこの点の主張も失当である。その他会長青山隆の処置に不当の点があつたという主張についてもこれを正当とすべき何らの証拠がない。
以上の理由により粟生村農地委員会の爲した本件宅地の買收賣渡が違法であることを前提とする原告の本訴請求は失当なのであるが、原告は本訴において右農地委員会の爲した買收賣渡及び異議申立却下の各行政処分について迄被告を相手どりその取消を求めているので、右の部分は行政事件訴訟特例法第三條に違反する不適法な訴としてこれを却下することとし、その余はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九條を適用して主文のように判決する次第である。
(裁判官 北野孝一 米光哲 向井哲次郎)
(目録省略)